全国新酒鑑評会で金賞を獲得する酒蔵の数が、都道府県別で6年連続1位を更新中の福島県。錚々たる実力蔵がひしめくなかで、金賞の連続記録でトップを行くのが福島県南会津町の国権酒造です。

2018年で11年連続金賞を獲得した国権酒造の吟醸酒造りについて、蔵元社長の細井信浩さんと杜氏の佐藤吉宏さんにお話を伺いました。

細井社長と佐藤杜氏

蔵元社長の細井さん(写真左)と杜氏の佐藤さん(同右)

出品酒のレベルを上げて、市販酒にフィードバック

国権酒造は創業明治10年(1877年)。今でこそ新酒鑑評会では11年連続の金賞を受賞する県内有数の蔵元ですが、昭和30年代には厳しい経営環境のため一時「集約製造」に参加し、醸造を他の蔵と集約して3年ほど造りを止めたこともありました。

その後国権酒造は独自の醸造を再開しますが、3年間のブランクは大きいものでした。売れ筋だった普通酒の商圏はすでに他の酒造に侵食されていたため、これまで同様の商売のやり方で売上を以前通りの規模に戻すことも難しい状況。ところが、ここで当時の蔵元は一念発起します。当時はあまり大きな注目を浴びていなかった品質の高い高額品に力を入れ始めたのです。

「國権」と「道一筋」

「國権 純米酒」と「道一筋 特別本醸造酒」

福島県の酒蔵としては、いち早く大吟醸酒を商品化。また、このころから全国新酒鑑評会で金賞を取ろうと吟醸造りに力を入れたのだそう。これは、市販酒の酒質をより高めるには鑑評会の出品酒のレベルを上げて、その成果を市販酒にフィードバックする必要があるという、蔵元と杜氏の共有認識に沿った戦略でした。

その結果、国権酒造は昭和55年(1980年)から4年連続して金賞を獲得するまでになったのです。

4年連続金賞受賞で変わった蔵の意識

「最近でこそ、金賞の連続記録は多くの蔵が実現していますが、当時は3年連続金賞でも全国的に話題になったほどで、4年連続は周囲に非常に驚かれました。当時、大吟醸は二級酒として売っていましたが、随分と注文が増えたと聞いています」と細井さん。

4年連続金賞受賞をきっかけに、品質の高い酒で勝負しようという蔵の意識はさらに高まりました。そして平成4年(1993年)に日本酒の等級制度(特級、一級、二級)が廃止されたことを契機に、国権酒造は普通酒と決別。特定名称酒(本醸造、純米、純米吟醸、大吟醸など)のみを造る経営へと舵を切っています。

純米生原酒「國権」垂れ口、山廃純米にごり酒「國権」

軸のぶれない酒を目指して

平成4年(1993年)から平成30年(2018年)までの27年間で、国権酒造が獲得した金賞の数は19回。福島県の酒蔵としてはトップクラスの成績です。

その立役者が、級別廃止の直前に国権酒造の杜氏となった佐藤吉宏さん。岩手県紫波町で農家の長男に生まれた御年67歳です。夏場は農業を、冬場は酒造りをするという典型的な南部杜氏で、鑑評会以外でもいろいろな賞を獲得している腕っこきの佐藤さんから、出品酒造りへの心構えについて、次のように語っていただきました。

「ずっと山田錦35%精米の大吟醸で出品していますが、理想のお酒というのは、香味のバランスが良く、呑んだ後にスッと切れることです。そのゴールを目指して、逆算で糖化酵素の力がある麹を造り、望ましい香りを造る酒母を育て、醪の温度管理をしっかりやります。

我々が理想とする出品酒の軸はぶれません。金賞を獲得した酒蔵のお酒の多くが香り高いという年もありますが、翌年はそれを参考に香りを出すようにしたりはしないのです。

出品したお酒については、後日、審査員からの指摘が送られてきますが、これは欠点だと理解して蔵元と徹底的に議論し、造りの修正に活用しています。ここまで11年連続で金賞を獲得する間には、出品する段階で、絶対金が取れるなと確信した年も何度かはありますが、たいていは予想がつきません」

原発事故がレベルアップの転機に

一方、蔵元の細井さんは福島県全体のレベルアップが大きいと話します。

「東日本大震災の原発事故が大きな転機でした。それまでも、県の指導でレベルは上がってきていましたが、原発事故で福島の酒造の運命共同体としての意識がはっきりとして、各蔵がそれぞれ持っている技術やノウハウが惜しげもなく相互に提供するようになったのです。これが間違いなく、金賞数でナンバーワンの県になった要因です」

酒米をみる佐藤社長

現時点で、5年連続以上金賞を獲得している福島県の酒蔵は以下の7蔵です(括弧内は銘柄名)

  • 11年連続受賞=国権酒造(國権)
  • 10年連続受賞=東日本酒造協業組合(奥の松)、名倉山酒造(名倉山)
  • 8年連続受賞=大和川酒造店(弥右衛門)
  • 7年連続受賞=松崎酒造店(廣戸川)、鶴乃江酒造(会津中将)
  • 6年連続受賞=白井酒造店(萬代芳)

酒造りの真骨頂は、その過程にある


11年連続で全国新酒鑑評会の金賞を受賞することにはもちろん大きな価値があります。しかし、国権酒造の酒造りの真骨頂は、その結果ではなく過程にあるのではないでしょうか。

自分たちの理想の信じる理想の日本酒造りに向けて毎年チャレンジを続けるなかで、あるいは福島県という大きな運命共同体の中で、ときには協力し、ときには切磋琢磨するなかで、国権酒造の日本酒は今もぶれずに成長を続けています。

ちなみに、今年の出品酒造りについて、佐藤さんは「かってないほどに山田錦がやわらかくて困惑している。これほど造りづらいのも久しぶり。今年は結果が心配です」と本音をポロリと漏らしていました。

平成最後の造りの出来はいかに。全国新酒鑑評会の結果が今から楽しみです。

(取材・文/空太郎)

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