上杉謙信が青年期までを過ごした長岡市(旧栃尾市)で、1845年(弘化2年)に創業した越銘醸株式会社。現当主・小林家の親戚筋にあたる多田家から、酒造株を購入したことが事業の始まりです。株式会社化したのは、1934年(昭和9年)。「越の鶴」の山城屋と「越の川」の山家屋が合併する形で誕生しました。栃尾の地にできた、初めての株式会社なのだとか。

主要銘柄は淡麗辛口タイプの「越の鶴」ですが、2014年(平成26年)に県外へ向けたブランドとして、創業当時の屋号を名前に付けた「山城屋」を立ち上げます。新潟らしい淡麗辛口の路線とは一線を画す、香りの華やかな芳醇旨口タイプで、かつ無濾過の生原酒か原酒を基本に、食中ではなくそれ単体で美味しいお酒を目指しました。

県外向けブランド「山城屋」を大幅にリニューアル

「山城屋」は、平成29年醸造年度(29BY)から造りの方針をガラッと変更しました。

  •  全量生酛仕込み
  •  全量純米大吟醸酒
  •  全量中取り
  •  全量生詰め酒

この4つをコンセプトにした、キレのある酒質で、料理と合わせることによって完成する食中酒。新潟清酒のクラシックな淡麗辛口とは異なる「ネオ淡麗」を掲げて、飲みやすいモダンな辛口を目指しています。

山城屋ファーストクラスのラベル

ラベルに書かれている『miracle world of micro organisms』は『(日本酒は)微生物による奇跡の世界』という意味。数本の曲線は、生酛仕込みにおける微生物の遷移グラフをシンプルに図案化したものです。生まれ変わった「山城屋」に賭ける、蔵の意気込みが伝わってきます。

食中酒としての純米大吟醸酒

今回紹介するのは、新潟県産米を40%まで磨いた「ファーストクラス」。精米歩合違いで「スペシャルクラス(30%)」「スタンダードクラス(50%)」というラインアップもあります。

穏やかな乳酸の酸味をもつ香りで、口に含むと、さらっとした米の旨味とコクを感じます。キリッと締まった味わいのなかにジューシーな酸味と米の甘味を感じ、最後は心地良い渋味を伴って、ズバッとキレていきます。

生酛らしい酸味もありますが、昔ながらの生酛がもつ無骨さは皆無。スタイリッシュな味わいで、往年の辛口ファンからビギナーまで、幅広く楽しめる一品です。開栓後、数日してからあらためて飲んでみると、米の旨味と生酛ならではの複雑味がさらに増幅されていました。熟成にも向いているかもしれません。

40%まで磨いた純米大吟醸酒のなかでも珍しい食中酒タイプ。冷やして飲むのがおすすめですが、味わいに幅があるので、どんなおつまみにも合わせられるはずです。

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