北鹿を代表する銘柄といえば、日本国内のスーパーマーケットでもっとも売れている(※)大吟醸酒「大吟醸 北秋田」。その一方で、降り積もる雪を利用した雪中貯蔵酒や、伝統的な秋田流生酛など、幅広い商品を展開しています。

※ KSP-POSの清酒カテゴリーにおける720ml瓶商品の2017年データより

そんな北鹿は、秋田県大館市に残る唯一の酒蔵。地元の方々からは、どのように親しまれているのでしょうか。

また、大館市は秋田県を代表する食文化の発祥の地でもあります。きりたんぽや比内地鶏などの郷土料理と北鹿の酒がどのように調和するのか。地元の飲食店を訪れ、北鹿とのつながりについて伺いました。

きりたんぽ鍋の名店「北秋くらぶ」

老舗料亭「北秋くらぶ」の外観

最初に訪れたのは、明治26年に創業した老舗料亭「北秋くらぶ」。ゆったりとした個室で、郷土料理を中心とした本格的な懐石料理を楽しめます。秋田名物・きりたんぽ鍋のコースは特に人気があるのだとか。

老舗料亭「北秋くらぶ」の五代目の石川博司さん

「北秋くらぶ」の5代目・石川博司さん

5代目の石川博司さんは、大館きりたんぽ協会の会長でもあります。毎年開催される「きりたんぽ祭り」でも、2017年にグランプリ、2018年に準グランプリを受賞するなど、上位入賞の常連店です。

老舗料亭「北秋くらぶ」が受賞した「大館きりたんぽグランプリ2018」の賞状

「大館はたくさんの山々に囲まれた盆地です。昔から、狩りや杉の伐採など、山仕事に従事する人たちが多くいました。作業の合間に、おにぎりなどの残り飯を練って鍋に入れたのが、きりたんぽ鍋の発祥とされています」

その後、明治の中期から大館市内の料亭や旅館が、地域のおもてなし料理として提供し始めました。

「きりたんぽ」とは、炊いた米を荒く潰し、木の串に巻き付けて炙ったもの。槍の先端を包む"たんぽ"に似ていることが名前の由来です。焼き上がったら串を抜き、切り分けて食べることから「きりたんぽ」と呼ばれるようになったといわれています。

囲炉裏の炭火の周りに刺されたきりたんぽ

今回は囲炉裏の部屋をお借りして、昔ながらの焼き方を再現していただきました。クルクルと串をまわしながら、15~20分ほど焼きます。焼き目がついたら完成。たんぽの焼き目を見ながら串をまわすのは、子どもの役目だったそうです。

「きりたんぽ鍋」の材料の比内鶏と野菜

「北秋くらぶ」のきりたんぽは、地元のブランド米「あきたこまち」のご飯を秋田杉の串に手作業でていねいに巻き付けた、こだわりの一品です。鍋の材料は、比内地鶏、まいたけ、ゴボウ、ネギ、セリ、糸こんにゃく。これらを比内地鶏のスープで煮込んでいきます。

北鹿は、自信をもって出せる酒

「北秋くらぶ」のきりたんぼ鍋には、北鹿の酒が欠かせません。スープのもとになるのが、北鹿の酒だからです。

「鍋の味付けは、北鹿の酒と醤油のみです。うちの味は、北鹿を使わないと出せませんね」

調理中の「きりたんぽ鍋」

鍋がグツグツと煮えるに従って、香ばしさが部屋中を満たしていきます。深いコクのある上品なスープは、北鹿の酒と地元の野菜が合わさって、滋味深い味わい。内側から身体を温めてくれます。

「北秋くらぶ」で飲める日本酒は地元の北鹿のみ。常時5~6種類を置いています。北鹿の酒を使った特製のきりたんぽ鍋に、北鹿の酒が合わないわけがありません。

「北鹿の酒は、県外から来たお客さんの反応がすごく良いですね。『美味しい.....』と、ため息をついて飲んでくれますよ。接待などの特別な場でも、北鹿は自信をもってお出しできます」

できあがった「きりたんぽ鍋」と北鹿

食材が旬を迎え、きりたんぽ鍋がもっとも美味しい10〜11月になると、地元の方々は「たんぽ会」と呼ばれる宴会を開くのだそう。

「『たんぽ会』は、きりたんぽ鍋を口実にみんなで集まる宴会です。最初は大吟醸酒を冷やして飲んで、それから生酛の酒を熱燗で飲むなど、いちどに数種類を飲まれるお客さんが多いと思います。北鹿は味のバリエーションが豊富なので、さまざまな料理に合わせやすいのも魅力ですね」と、石川さん。

お客さんをおもてなしする場でも、地元の人が集まる場でも、さまざまなシチュエーションに寄り添う地酒として信頼されていることが伝わってきました。

比内地鶏を存分に味わえる「秋田比内や」

「秋田ひないや」の内観

続いて訪ねたのは「秋田比内や 大館本店」。大館が発祥の比内地鶏を中心に、地元の食材を使った料理が評判の居酒屋です。

店長に就任してから5年目という藤原喜久子さんに話を伺いました。

「秋田比内や 大館本店」の店長・藤原喜久子さん

「秋田比内や 大館本店」の店長・藤原喜久子さん

大館市には『秋田杉の器で地酒による乾杯を推進する条例』があります。「秋田比内や」でも、伝統工芸品の曲げわっぱを使って、北鹿の酒で乾杯するようにおすすめしているのだそう。

「うちの店は、県外から来るお客様が多いんです。せっかく大館まで来てもらったからには、地元の酒を楽しんでほしい。地元の曲げわっぱで地元の北鹿を飲んで、地元の比内地鶏を食べてもらう。こうした地産地消が、店のコンセプトにもなっているんです」

「秋田ひないや」の外観

店のオープンは、23年前。創業者が比内地鶏に興味をもち、仲間を集めて立ち上げたのだとか。自社で比内地鶏を育てるなど、地域に密着したさまざまな取り組みを行なってきました。

「地元の味を県外に発信しなければ、ただの"お食事処"に終わってしまいます。県外のお客様はもちろん、地元の方々にも、大館の地酒として、北鹿をおすすめしています」と、藤原さんは熱い思いを語ってくれました。

乾杯から食後酒まで、地元の食材に寄り添う酒

「北鹿は、うちの料理ととっても相性が良いんです」という藤原さん。乾杯から食後酒まで、北鹿の酒のみで提供することも少なくないのだとか。

「まず乾杯は、県内限定の『大吟醸 ひないどり』から。ほわっと甘い香りがしてフルーティーなので、1杯目にぴったりです。特に推している比内地鶏のレバーは、濃厚でねっとりとしているので、それをサラッと流してくれるスッキリ系の『羽州北鹿 純米吟醸』との相性が良いですね。胸肉や皮などのサッパリとしたお肉には『雪中貯蔵 特別純米酒』を合わせています。最後は、食後の締めとして『大吟醸 北秋田』。デザート感覚でフルーティーな味わいを楽しんでもらっています」

「北鹿 雪中貯蔵酒」と比内鶏の串焼き

藤原さんにとって、北鹿の酒は「あってありがたい。ないと困る」存在になっているのだとか。

「うちの食材と相性が良いので、これからもずっとあってほしいし、なくなったら困ってしまいます。お客さんは、その土地の美味しい食べ物や地酒に期待しています。美味しい地酒があるからこそ、地元の料理も美味しく食べてもらえるので、大館を楽しんでもらうためには、どちらもあることが大事なんです」

魅力ある町づくりのため、地元の期待を担う

かつては城下町として栄えた大館の町。鉱山ができたことで働き手が増え、町はとてもにぎわっていたそうです。当時を知る、隣町出身の藤原さんも「就職したら大館に行きたい」という憧れを抱いていたのだとか。今でも、時代の変化に負けまいと、地域の企業や店が協力し合って、地元を盛り上げる活動を続けています。

大館を代表するブランドである北鹿も、地酒として、地元の生活になくてはならないものでした。市内唯一の酒蔵である北鹿に大きな期待が寄せられていることが感じられました。

(取材・文/橋村望)

◎取材協力

sponsored by 株式会社北鹿

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