世界一美味しい市販酒を決める審査会「SAKE COMPETITION 2016」が2016年7月に開催され、茨城県・来福酒造の「来福 超精米 純米大吟醸」がSuperPremium部門1位の栄冠に輝きました。

Super Premium部門の審査対象は、特定名称酒に限らず、720mlで小売価格が8,000円(外税)以上、1,800mlで15,000円(同)以上の清酒。まさに、あまたある日本酒の最高級美酒を決める戦いです。

そのような競争の頂点に立ったお酒はどのようにして誕生したのか。来福酒造の蔵元・藤村俊文さんと杜氏・佐藤明さんにお話を伺いました。

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およそ10年をかけてたどりついた精米歩合8%

「来福 超精米 純米大吟醸」は、茨城県産の酒造好適米である「ひたち錦」を精米歩合8%まで磨いて造った純米大吟醸です。使っている酵母は来福酒造が得意とする花酵母(アベリア)で、価格は720mlで8,000円(外税)です。

開発のきっかけは藤村さんが15年前に抱いた「茨城県にしかない酒米でお酒を造りたい」という強い思いでした。県の農業総合センターに足を運んだ際、偶然にも茨城県独自の酒造好適米の研究をしているところでした。候補となる米は2品種あり、「新しい米を使って、良質な酒ができるかどうかを確認したい。ぜひ、来福酒造で試して欲しい」と逆に提案されたのです。

2001年(平成13年)、候補となった2品種のうち、山田錦よりもデータ的に優れていることがわかった「ひたち錦」(当時の名称は「い系酒50」)が選ばれ、来福酒造が試験的に醸造することになります。

2003年(平成15年)には茨城県酒造組合加盟の酒蔵がスクラムを組み、「ひたち錦」と県産の酵母を使ったお酒を統一ブランド「ピュア茨城」として売り出しました。

すべての酒蔵が、同じ精米歩合55%の特別純米酒を造ったのですが、これが期待したような評判にはなりませんでした。「ひたち錦」の米は硬く、醪タンクの中でなかなか溶けず、糖化が進まないため、味のりの足りない淡白な酒になる傾向が強かったようです。

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そこで藤村さんは考えました。「ひたち錦は硬い米。ということは思い切って削っても割れないだろうから、大吟醸の限界に挑戦してみよう」と。その挑戦は2004年(平成16年)から始まります。

まずは精米歩合20%台で試験醸造を行い、これに成功。翌年以降は精米歩合19%、15%、11%、10%、9%と毎年削る率を高めていき、到達したのが精米歩合8%でした。

「40%精米ぐらいまではガンガン削りますが、それ以降は米が割れないように削るスピードと圧力を慎重に調整します。このため、当初は精米に7日ぐらいかかりましたが、徐々にコツがつかめ今では4日程度で削れるようになりました」

精米歩合8%と一般的な純米大吟醸である精米歩合50%を比べてみると、写真のようにいかに精米歩合8%が小さいかわかりますね。

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ザルから米が抜け落ちる!? 8%精米ならではの苦労

精米だけでなく、造りのいろいろな場面でも苦労があったそうです。

まずは洗米。精米した米の粒が小さすぎてザルから抜け落ちてしまうのです。精米歩合8%に磨いた米は、なんと一般的な住宅にある網戸からも抜けてしまうほどの大きさとのこと! 結局、布の袋に入れたまま洗米することにしたそうです。「ひたち錦」は硬いので吸水も遅く、袋で洗っても支障がありませんでした。

もうひとつのハードルは麹造り。大吟醸の麹は、ほとんどの酒蔵が麹菌の菌糸が米の中心に向かって伸びていく「突き破精」になるよう造ります。しかし、米の粒が小さすぎて、「どんなに少なく種麹を振っても、あっという間に米全体に菌糸が広がってしまい、突き破精にはなりませんでした」と佐藤杜氏。酒母造りや醪管理の調整によってこの課題を乗り切ったそうです。

以前は「純米大吟醸 1割1分磨き」という表示でしたが、「8は末広がり。これ以上の削りは追い求めない」との藤村さんの決断で、2012年(平成24年)、精米歩合8%のお酒に「超精米」と冠した新商品が誕生したのです。

1年目の仕込みは醸造アルコールを添加した大吟醸でしたが、翌年からは添加はせず、純米大吟醸になりました。

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「超精米」が生まれたサーマルタンク

受賞の反響とこれからの展望

今年のSuper Premium部門のトップになったことについて、藤村さんは「僅差の勝負になるだろうと予想していましたが、1位になるのは厳しいかなと思っていました。多くの人たちも同じだったようで、うちの酒が1位と発表されると、会場は静かになりましたよね。それも愉快でした」と笑っていました。

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発表翌日から、さっそく注文が増えてきたそうです。このため、今までは春先に2本のタンクで造っていたものを、秋と春に2回仕込むことにして、在庫が途切れないようにするそうです。

佐藤杜氏は「まだ100%満足のいく出来ではありません。さらなる工夫の余地があるので、酒質をもっと向上させます」と意欲を見せています。藤村さんも「より高級感が出るようにボトルもデザインも変更します。価格も見直して、贈答用の高級酒として、国内はもちろん、海外でも売り上げを伸ばしていきたい」と抱負を語っていました。

「SAKE COMPETITION」での二連覇、期待しています。

(文/空太郎)

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