造りだけでなく、田植えや稲刈りから自分で手掛けた日本酒を飲むことは、蔵人でもあまり経験できないかもしれません。それが、細部までこだわり抜いた逸品となれば、なおのことでしょう。

そんな日本酒好きの野望を実現したのが「オリジナルラベル最高級日本酒 純米大吟醸『想定内』『想定外』プロジェクト!」。完成した日本酒を飲むだけでなく、田植えや稲刈りにも携わることで酒造りの楽しさを体験できる、参加型のプロジェクトです。

今回は、クラウドファンディングの支援者に与えられるリターンとして行われた、「純米大吟醸『想定内』『想定外』」を醸す酒蔵、長野・大信州酒造の蔵見学に同行しました。

大信州酒造の登り

発足のきっかけはホリエモン

「最高の純米大吟醸酒を自分たちで造ろう」という計画が発足したのは、2017年11月。リーダーの藤井耕太さんが参加するHIU(堀江貴文イノベーション大学校)で、ホリエモンこと堀江貴文さんの提案から始まりました。

藤井さんがクラウドファンディングを立ち上げると、極上の酒造りに賛同したメンバーが集結。さらに、プロジェクトメンバーの紹介で長野県・大信州酒造とのコラボレーションが生まれ、独自の酒造りが実現することになりました。

そんなプロジェクトの支援者に対するリターンとして開かれたのが、今回の蔵見学です。

関東にも雪が残る1月28日、雪深く寒さの厳しい長野県に参加者が集合し、酒蔵へ。メンバーの数名は、昨年秋に行われた稲刈りにも参加しています。

北アルプスの山々に囲まれた大信州酒造

大信州酒造があるのは長野市豊野町。長野駅からJR飯山線に乗り、信濃浅野駅で下車します。駅では、経営企画担当の関澤専務が出迎えてくれました。関澤専務の案内で雪の小路を歩くこと3分。杉玉のかかった「豊野蔵」に到着しました。

参加者を出迎える関澤専務

大信州酒造の創業は明治21年(1888年)。戦後、近隣地区にあった複数の蔵が合併し大信州酒造になりました。豊野蔵では製造と瓶詰めを、瓶詰め以降の工程は松本市の本社で行なっています。

酒造りに使われる酒米は、県産の「ひとごこち」と、幻の酒米「金紋錦」。契約栽培米のみを使っています。また、大信州酒造では、色や雑味を取り除くための濾過をしません。さらに、加水をしない原酒が商品の大半を占めているのだとか。自然に恵まれた環境で、なるべく自然に逆らわない酒造りをしているのが特徴です。

長野を味わえるランチと日本酒講座

お昼ご飯のおにぎりと野沢菜

製造責任者である田中勝巳専務からあいさつの言葉があり、まずは温かいご当地メニューがふるまわれました。大きなおにぎりが4種類。なめたけ、野沢菜炒め、野沢菜まぶし、塩むすび......そして、寒さで冷えた体にうれしい具だくさんの粕汁も。野沢菜漬けなどの長野らしい家庭料理に、参加者のみなさんは癒やされている様子でした。

昼食の後は、田中専務による日本酒のミニ講座。ただ日本酒を飲んでいるだけではわからない、基礎的な知識を学びました。基本を知っているか知らないかで、お酒に対する向き合い方は大きく変わるでしょう。

大信州の田中勝巳専務

楽しい講座が終わると、待望の蔵見学がスタート。

契約栽培米の産地や生産農家の人となりなど、とても明快な説明で、原料米に力を入れていることがよくわかりました。酒の味を左右する洗米や浸漬の作業は特に気が抜けません。ストップウォッチを片手に、声を出しながら蔵人たちが協力して、正確に作業をしていました。

米を洗う蔵人

丹精込めて作られた米を受け継ぎ、それをいかに美味い酒にするかは、蔵人の力量にかかっています。まさに、バトンリレーのようですね。

金紋錦の生産者「太陽と大地」の柳澤健太郎さん

ここで「想定内」「想定外」の原料米となる金紋錦を生産している会社「太陽と大地」の柳澤夫妻も合流。長野県東御市八重原にある田んぼは、標高700メートルに位置しているのだそう。

金紋錦

柳澤さんは会社員を経て実家の農家に戻り、後を継ぎました。もともとはコシヒカリなどの食用米を栽培していましたが、10年ほど前に酒米を作りたいと思い立ち、大信州酒造にその熱い思いを粘り強くアピールしました。縁を大切にする田中専務の計らいもあって、それ以来、契約農家として大信州酒造の原料米生産に関わり続けています。

手作りを大切にする伝統の酒造り

蒸した米を広げて、時間をかけて自然放冷する「さらし」の工程も大信州酒造のこだわりのひとつ。すべての工程において、自然に近い状態を大切にしています。ていねいに積み上げてきた蔵独自の技術は「想定内」「想定外」にも惜しみなく使われるのです。

大信州の特徴のひとつ「さらし」

「こういう酒を造りたい」という目標から逆算して進められる酒造り。そのなかでも、酒母造りはまさに酒の素となる重要な工程です。今回の蔵見学では、発酵中の酒母を見ることができました。

醪を調べる大信州の蔵人

緊張感をもって作業をする蔵人たちは、寒さをものともせず、集中して酒造りに取り組んでいるのでしょう。

蔵の敷地内には御社があり、酒の神様といわれる松尾様が祀られています。大信州酒造は全国で唯一、敷地内に神社がある酒蔵なのだとか。蔵内でも特に寒い貯蔵庫を最後に見学を終え、再び、温かい室内へ戻りました。

ここからは、蔵見学の楽しみのひとつ、きき酒の時間です。このプロジェクトならではの特別な体験が待っていました。

自然の恵みを映した"天恵の美酒"の数々

用意されていたのは「辛口 特別純米酒」「香月 純吟中汲み槽場直取り」「N.A.C.(長野県原産地呼称管理制度認定)ひとごこち2017」など、7種類の日本酒と「みぞれりんごの梅酒」です。

前述したように、大信州酒造で使う酒米は「ひとごこち」か「金紋錦」のみ。さらに、濾過の作業を行っていません。酸の強弱はありながらも、どの酒もきれいでマイルドな味わいです。フルーツのニュアンスもありました。自然と融合した無理のない造りから生まれる無垢さが感じられます。きき酒のプロでもある関澤専務の巧みな表現を聞きながら、じっくりときき酒をすることができました。

テイスティングの最中

ひととおり味わったところで、長野県で作られたチーズやりんごとのペアリングを堪能。単体でも充分に美味しいですが、それぞれを合わせることで、新しい楽しみが広がります。地元の酒は地元の食べ物によく合うということを体感することができました。

甘酒

鍋で温められているのは、麹だけを使った旨味いっぱいの甘酒。砂糖は一切使用せず、麹本来の甘味を引き出した本日限定のスペシャルな甘酒に、参加者一同、感動していました。

大信州のお酒ラインナップ

みずからが飲むことになる酒の米作りに携わり、蔵を視察し、そしてまもなく酒造りにも関わる参加者のみなさんは、蔵元や米農家との絆を深めることができた様子。思いが詰まった酒は調和を生み、春には思いもしない"想定外"の仕上がりになることでしょう。

より多くの人に酒造りの楽しさを伝える「想定内」「想定外」のプロジェクト。今後の活動にも注目です。

(取材・文/子星)

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