2022年2月、兵庫県西宮市の日本酒メーカーである日本盛株式会社は、日本酒の品質劣化の原因のひとつと言われる「メイラード反応」を抑制する酒造技術の特許を取得しました。今回の発明の正式名称は「高温で保存される清酒の製造方法及び保存方法」です。

日本盛株式会社の外観

2018年撮影 ※記事トップの写真も同様

酒類におけるメイラード反応とは、液体に含まれる糖類とアミノ酸が結合することで、味や香りが変化したり、液体が着色したりする反応です。温度の上昇に伴い、反応は加速度的に進行することが知られています。

一般的には、日本酒の代表的な劣化要因とされていますが、熟成酒などにおいては、メイラード反応によって独特の複雑な香味がもたらされる場合もあります。

メイラード反応の比較画像

日本盛は、なぜメイラード反応を抑える技術を開発したのでしょうか。また、この技術は今後どのように活用されていくのでしょうか。日本盛の商品開発室 室長・高野将彰さんと、生産本部 研究室・櫻井崇弘さんに話をお伺いしました。

新しい技術は、海外輸出にも応用可能!

— 今回特許を取得した技術は、2017年に発売した「日本盛 燗酒 180ml ボトル缶」に応用されているのでしょうか。

高野さん:はい。「日本盛 燗酒 180ml ボトル缶」は、コンビニや売店を中心に、ホット販売専用の商品として展開しています。

これをより美味しく飲んでいただくためには、コンビニなどに置かれているホットウォーマー(保温庫)の高温環境に長時間耐えられる酒質が必要です。この数年、その酒質を実現するための技術開発に注力し続けた結果、今回の特許取得に至りました。

「日本盛 燗酒 180ml ボトル缶」

「日本盛 燗酒 180ml ボトル缶」

「燗酒ボトル缶」は、全国的な広がりはまだまだです。ただ、局地的には、日本酒に触れる新しい機会をつくっている手応えがあります。

たとえば、よく売れているのは駅のホームにある売店。乗り換えの合間などに購入していただいるケースが多いです。ほかには、ゴルフ場やラグビー場、競馬場の近くにある売店など、外で温かいものが飲みたいシーンにおいて、日本酒の選択肢を広げている実感があります。

ただ、「いかに品質保持性を高めるか」という点は「燗酒ボトル缶」に限った話ではありません。そのため、今回の技術はほかの商品にも応用できると考えています。

— 高い温度で保存しても品質が劣化しにくい製法のポイントとして「アミノ酸を減らす」という点を挙げていましたが、そのぶん、日本酒の旨味が少なくなってしまうのではないでしょうか。

櫻井さん:アミノ酸を完全になくすのではなく、アミノ酸をある程度まで減らした上で糖類を加えてバランスを取ることにより、味わいが物足りなくならないように調整しています。

日本酒に含まれるアミノ酸は、原料である米のタンパク質が麹菌によって分解されることで生成されますが、今回はアミノ酸を減らすために、麹の使用量を減らしています。ただ、麹菌は米のデンプンを糖に分解する働きも持っているので、麹を減らしたぶん、酵母の発酵に必要な糖も少なくなってしまいます。

そのため、酵素剤を加えてデンプンの分解を促進させることで、アルコール発酵に必要な糖を確保しつつ、アミノ酸の量を減らすことに成功しました。また、香味の調整のために加える糖類についても、長期間の加温状態でも着色しにくいものを厳選しています。

— この技術は、「燗酒ボトル缶」以外にどのように活用されていますか。

高野さん:「超盛300mlカップ」という商品があるのですが、透明な瓶だと、光が入ることによって劣化が進んでしまうことがあります。特に、着色してしまうとクレームの原因にもなってしまう。ただ、今回の技術を応用することで、より劣化しにくい酒質改良に成功しました(2019年秋にリニューアル)。

「超盛300mlカップ」

「超盛300mlカップ」

櫻井さん:ほかにも、特に赤道直下の地域に日本酒を輸出する場合、40℃近く、あるいはそれ以上の高温環境で保管されることも想定されます。その場合でも、品質を維持した状態でお届けすることが可能になると思います。

これまで日本酒を届けられなかった地域にも輸出できるようになることで、新たに日本酒に出会う機会をつくることができればうれしいですね。

取材を終えて

今回、日本盛が特許を取得した技術について、当初は「燗酒ボトル缶」にのみ応用されるものと考えていました。しかし、話をお伺いすると、そのほかの商品や海外輸出にも応用できることがわかりました。

日本酒の海外輸出については、現在、冷蔵での輸送が整備され始めていますが、世界的には過度な電力消費がネガティブに捉えられることもあります。その点では、常温流通が可能な商品には大きな役割があると考えられます。

今回の技術を応用して、輸送中の温度上昇に耐えられる商品が開発された場合、地球の裏側に新たな日本酒ファンが生まれるかもしれません。今後の動向にも期待が高まります。

(執筆・編集/SAKETIMES編集部)

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