10月19日に開催された「日本吟醸酒協会」の総会にて、第8代理事長の大井建史さん(秋田県・天寿酒造の代表取締役社長)の後を受けて、第9代理事長に、岩手県・南部美人の代表取締役社長である久慈浩介さんが就任しました。理事長としての抱負をお伺いしました。

吟醸酒を世界の「GINJO」へ

— 久慈さんが理事長に就任した経緯を教えてください。

先代の理事長から、「コロナ禍の危機的な状況を突破していかなければならないこの時だからこそ、久慈くんにお願いしたい」と打診があり、お受けしました。正直、いつかやることになるだろうとも思っていましたが、私の想像よりも早くその時が来たという感じでしたね。

— 新しい理事長としての抱負は何でしょうか。

日本吟醸酒協会の設立は1981年。今年で40年の歴史がある協会です。これほど長く続いている日本酒のグループは他にはありません。

私の日本酒業界でのデビューは、日本吟醸酒協会が主催している「吟醸酒を味わう会」でした。当時、まだ大学生でしたが、父に言われて会場で手伝いをしたことをよく覚えています。そういう意味では、この協会に育ててもらった恩があります。

だからこそ、先代が築いてきたものを大事にしなければなりません。そのひとつが、この「吟醸酒」という言葉を日本中に広めたという実績です。日本吟醸酒協会が設立された1981年は、まだ特定名称ではなく級別制度の時代で、日本酒を「特級」「1級」「2級」で分けていました。

まだ当たり前ではなかった「吟醸酒」を世の中に広めていこうと全国の有志酒蔵が集まって、「吟醸酒」という言葉を広めようと尽力してきた40年。しかし、この「吟醸酒」という言葉を知らない人はまだまだたくさんいますので、日本国内での啓蒙活動もしっかりと続けていきたいと思っています。

ただ、昔の話ばかりしても仕方ありません。前進するためには何をすべきかを考えると、新しい市場に挑戦していくことが、自分に課せられた使命だと思っています。

— 新しい挑戦とは具体的にどんなことでしょうか。

私に期待されているのは、海外への挑戦。私の世代がやるべきことは、吟醸酒の魅力を「GINJO」という言葉で世界に伝えていくこと。先代が主に日本国内で40年間かけてやってきたことを、今度は世界に向けてやっていく。その第一歩を踏み出します。

また、国内も含めて、行政との連携やSNSを使った情報発信、関係者だけでなく一般の消費者を対象にしたイベントの開催なども取り組んでいきたいです。特に、日本国内に住んでいる海外出身の方々へのアプローチがあまり進んでいないのはもったいないと感じています。

ワイングラスに日本酒を注いでいる様子

— 世界に伝えるべき、吟醸酒の価値とは何でしょうか。

吟醸酒を飲んで最初に感動するのは、やはり「香り」です。私は、日本酒を飲み慣れていない方にわかりやすく美味しいと思ってもらえるのは、吟醸酒ではないかと思います。

吟醸酒のカテゴリーには、アルコールを添加したものも純米もありますが、純米酒と比べて良い意味で味わいの幅が広くないため、わかりやすい。

逆に、純米酒のカテゴリーには、冷やして美味しいものもあれば、燗映えするものもあります。それらをひとつのカテゴリーで括れる純米酒は多様性という観点では魅力的ですが、初心者にとってはわかりにくい部分もあると思っています。

だからこそ、美味しい日本酒を飲んでみたいという方々が最初に覚える言葉として「GINJO」を広めていきたい。「GINJO」が美味しい日本酒の代名詞になってほしいと考えています。

ただ、あまり自分の色を出しすぎてしまうと次に続いていきません。次の代にも、その次の代にも続いていくようなベースを自分の代でつくりたいですね。

取材を終えて

吟醸酒を世界の「GINJO」へ。自身が社長を務める南部美人にて、積極的な海外展開を進める久慈さんだからこその力強い言葉でした。これからの動きに期待しましょう。

(執筆・編集/SAKETIMES編集部)

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